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硬膜外脂肪の特発性無菌性肉芽腫性炎(Idiopathic sterile pyogranulomatous inflammation)

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硬膜外脂肪の特発性無菌性肉芽腫性炎とは

特発性無菌性化膿性肉芽腫(ISP)または無菌性脂肪織炎は、犬で時折認められる疾患です。ミニチュアダックスフントやワイマラナーなどの犬種で好発することが知られています。ISPの原因や発症機序はよく分かっていませんが、病変部位から微生物や異物が確認されないこと、また全身性のグルココルチコイド療法に良く反応することから、異常な炎症性組織球性反応であることが示唆されています。当院ではISPが脊髄周囲の硬膜外脂肪に発生し脊髄を圧迫して脊髄障害を引き起こすことを世界で初めて証明し、硬膜外脂肪に発生したISPに対する診断法や治療成績をまとめ、獣医神経病研究会(2006年)と獣医麻酔外科学会(2008年)において報告しました。2008年には獣医外科学の最高権威である米国のジャーナル Veterinary Surgery に論文が掲載されました(参考文献 PMID: 19134111)。さらに、2011年に米国獣医外科専門医協会年次大会(シカゴ)、2012年に欧州獣医外科専門医協会年次大会(バルセロナ)で論文に症例を追加しアップデートした内容の発表を行いました。

症状

脊髄圧迫に伴う急性または慢性の不全麻痺や完全麻痺、傍脊椎痛を示します。
脊髄障害以外の症状では、皮下や腹腔内などの脂肪組織に脂肪織炎を示すことがあります。典型的な皮膚病変は単発性あるいは多発性の皮膚結節を認め、その大きさは数ミリメートルから数センチメートルに至るものまで様々です。結節は硬く限局性、あるいは軟らかく境界不明瞭なものが認められ、初期には皮下に形成されていたものが皮膚全体に広がることがあり、嚢胞や潰瘍、瘻管形成へと進行することがあります。全身性の脂肪織炎は、発熱、食欲不振、傾眠および沈鬱などの全身症状がみられます。

診断

脊髄造影検査やMRI検査で脊髄圧迫病変を診断し、手術時に採取した組織の細菌培養検査および病理組織検査を行い確定診断します。
硬膜外膿瘍や腫瘍性疾患、椎間板ヘルニアなどとの鑑別診断が必要です。特にミニチュアダックスフントでは椎間板ヘルニアなどの脊髄疾患を鑑別する際にISPを鑑別リストに加える必要があります。

  • 脊髄造影検査
  • 第11-12-13胸椎領域の硬膜外背腹側に脊髄圧迫病変がみられる
  • 斜位像より右背腹側の硬膜外脊髄圧迫病変であることがわかる
  • MRI検査
  • T2強調像(sagittal)
  • T1造影後(sagittal)

第6頸椎~第3胸椎領域の脊髄腹側の硬膜外脂肪の炎症、椎骨の炎症が示唆される

治療

単一または複数の片側椎弓切除術を行い、脊髄を圧迫する脂肪組織に対し外科的な減圧術を施します。
術後の内科的管理として、一般的には皮膚脂肪織炎の治療と同様にグルココルチコイドの投与を行います。

  • ISPの術中所見

予後

外科治療後の予後は概ね良好であり、多くの症例は短期間で歩行機能が回復します。一部の症例では術後、皮下脂肪組織やその他脂肪組織、縫合跡などに脂肪織炎を生じることがあります。
グルココルチコイドへの反応には個体差があるため、その効果についてはさらなる検討が必要です。