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猫ワクチン関連肉腫(Feline Vaccine Associated Sarcoma: FVAS)

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猫ワクチン関連肉腫とは

猫ワクチン関連肉腫(FVAS)はワクチン接種を受けた猫のうち1万頭に1-3.6頭の割合で発生すると推測されています。
その正確な病因は不明ですが、ワクチン接種に関連して発症すると考えられていて、組織学的分類では線維肉腫以外に、骨肉腫、横紋筋肉腫、軟骨肉腫および悪性線維性組織球腫などが報告されています。
犬や猫の線維肉腫の多くは転移しにくいにもかかわらず、FVASの転移率は22.5%と報告されています。
FVASは他の悪性腫瘍と比較しても局所浸潤性が極めて強く、不十分な腫瘍切除による局所再発のリスクが高いため、外科的完全切除には専門的な知識と技術が要求されます。FVASに対する治療には、広範なマージンを含めた外科的完全切除が最も重要で、転移性病変が存在しなければ早期に実施する必要があります。

術前検査

患者の内科疾患、腫瘍疾患などの病歴、ワクチン歴を把握し、血液検査、ウイルス検査、X線検査や超音波検査、細胞診あるいは組織生検による腫瘍の確定診断をしてから手術を計画します。
転移の有無、腫瘍浸潤および外科マージンの評価のためにCT検査などをします。

  • FVASを完全切除するためには腫瘍辺縁から5cmの腫瘍切除マージンが必要です

腫瘍の深部組織への浸潤を評価するためにCT検査やMRI検査などが必要なことがあります。

  • CT検査による腫瘍の深部マージン、骨への浸潤の評価
  • 腫瘍の周囲組織との位置関係を評価(CT検査3D構築画像)
  • MRI検査による腫瘍内部、および周囲組織の浸潤性の評価

切除マージンの決定

触診による腫瘍の範囲の術前評価は難しく、造影CT検査、MRI検査により詳しく腫瘍浸潤範囲を評価しても確実に微小な腫瘍浸潤まで評価することは困難です。
FVASには周囲組織に頻繁に顕微鏡レベルの根が広がっていることがあり、この評価は病理組織学的検査においても困難なことがあります。
一般的な犬の軟部組織の肉腫では通常2-3cmの側方マージンおよび筋膜1層を含めた切除をしますが、これをFVASに適用すると高い割合で不完全切除となり局所再発が起こります。
外科的切除後の局所再発率の2つの報告では、完全切除後では19%と22%、不完全切除後では58%と69%でした。
この従来実施されている切除マージンで治療を受けた症例の1年、および2年生存率は、それぞれ35%、9%であり、長期の生存は期待できません。
この経験をふまえ、FVASに対しては、より広いマージンの確保のために腫瘍辺縁から側方に5cm、深部マージンとして2層の筋膜の切除が推奨されています。
この積極的な治療の結果、完全切除率97%、再発率11%、1年、2年、3年生存率がそれぞれ91%、86%、74%と飛躍的に改善されました。
FVASに対するこの広範囲切除には棘突起骨切り術、断脚、肩甲骨部分切除術あるいは片側骨盤切断術などを併用しなければならないことがあります。

不完全切除症例に対する拡大手術、再発時の手術

過去に手術を受けている患者の不完全切除に対する拡大手術、局所再発に対する2回目の手術では、前回手術の皮膚縫合線の辺縁から5cmの側方マージンをとる必要があり、治療が更に困難になります。
術前放射線療法(RT)を受けた症例では、RT照射後の皮膚の変質による縫合部の離開を防ぐために、RT照射の影響による皮膚変色辺縁から更に側方のマージンをとることがあります。

  • 再発時の手術では腫瘤辺縁及び全手術時の縫合線の双方から5cmの側方マージンの切除が必要です
  • RTによる皮膚の変色より更に側方での切除をします

周術期の疼痛管理

腫瘍切除手術には広範囲な組織切除に伴う外科的侵襲と同時に疼痛が加わるために、周術期には積極的な疼痛管理をして、患者が痛みによる苦痛を感じない状態で治療を進めることが重要です。
全身麻酔には積極的な疼痛管理の為に、麻薬性鎮痛薬による硬膜外麻酔法や術後の持続点滴などの他、術創内カテーテルにより定期的に局所麻酔薬を注入する方法などを併用します。

  • 術後には、麻薬性鎮痛薬の持続点滴や術創内カテーテルによる局所麻酔薬の定期的投与などを併用し、患者の疼痛が収まるまで積極的な疼痛管理をします

FVASは他の悪性腫瘍と比較しても局所浸潤性が極めて強く、不十分な腫瘍切除による局所再発のリスクが高いため、外科的完全切除には専門的な知識と技術が要求されます。
FVASは悪性度が極めて高く、進行も早いために、診断後早期に治療を開始する必要があります。
不完全切除や再発に対する二次治療には、更に広範なマージンを含めた外科的完全切除が必要となることから、最初の診断時に適切な治療を受けることが完全治癒に向けた最大のチャンスと考えられています。