日本小動物外科専門医のいる動物病院
胸線腫は前縦隔部に発生する胸腺上皮細胞由来の腫瘍で、臨床的に良性の非浸潤性胸腺腫と悪性の浸潤性胸腺腫に分類されます。非浸潤性胸腺腫は腫瘍が完全に被膜で覆われ境界明瞭ですが、浸潤性胸腺腫は被膜を越えて周囲組織に浸潤し、腫瘍の境界は不明瞭です。
ゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーに好発すると報告されています。
腫瘍が大きくなるにつれて気管、肺、食道が圧迫され、発咳、呼吸促迫、呼吸困難、嚥下障害が起こり、まれに静脈やリンパ管の圧迫により、胸水貯留や前大静脈症候群が発生します。重症筋無力症を併発すると運動不耐性や巨大食道症による吐出が起こります。
高カルシウム血症を伴うことがあり、20%の割合で他の腫瘍を併発していると報告されています。
レントゲン検査により前縦隔部の腫瘤を確認し細胞診検査、コア生検などの組織検査により、リンパ腫など他の腫瘍と鑑別します。
周囲組織との関連や浸潤性をCT検査で評価します。
非浸潤性のものであれば外科的完全切除により根治が期待できますが、浸潤性のものでは完全切除が困難で、切除後に再発や胸腔内播種が起こることがあります。
外科手術単独での中央生存期間は犬で790日、猫で1825日と報告されています。
放射線治療には75%の患者が反応しますが、根治は難しく腫瘍が縮小しても数ヶ月後には再腫大します。
巨大食道症や他の腫瘍を伴うと予後が悪いことが知られています。
ラブラドールレトリバー、避妊メス、7歳、体重30.8kg
運動不耐性を主訴に来院されました。
前縦隔部腫瘤と運動不耐性から、胸線腫および重症筋無力症の併発が疑われました。
抗アセチルコリンレセプター抗体や電気生理学的検査により、重症筋無力症と診断しました。
周囲組織への浸潤はなく、完全切除されました。
術後4年経過観察中ですが、重症筋無力症は寛解し、腫瘍の再発もありません。