日本小動物外科専門医のいる動物病院
高所(ビルの2階以上)からの落下事故に関連する一連の外傷を高所落下症候群と呼びます。高所から落下した際の猫の習性により胸部、四肢、顔面の外傷が頻発します。高所落下症候群の猫の90%に胸部損傷があり、呼吸障害につながる気胸(63%)や肺挫傷(68%)には緊急的な救命措置が必要です。四肢や骨盤、顎骨の骨折も頻発するため、命に関わる外傷の救命措置に続いて整復固定術などが必要です。まれに膵管や膀胱の破裂など腹腔内臓器の損傷や椎体骨折に伴う脊髄損傷が生じることもあります。
ある報告では、2-32階の高さから落下し生きて病院に運ばれた猫の30%以上で胸部損傷に対する緊急治療が必要でした。猫は落下中のある時点から体の力を抜いて四肢を地面と平行に広げた姿勢を取る習性があるため、7階以上の高さから落下した場合は体幹が最初に地面に衝突し重度な胸部損傷が生じやすいと考えられています。一方、2-3階からの落下では緊張した四肢から地面に衝突するため四肢の骨折が生じやすく、4階以上の高さになると四肢の骨折率は減少する傾向がありました。前肢(38.5%)に比較し特に脛骨骨折や大腿骨骨折など後肢(61.5%)の骨折が多く、複数肢の骨折は16.4%でした。
マンションなどで猫を飼育する際には飼い主は窓の開閉に注意し、落下事故を防ぐ努力が必要です。