日本小動物外科専門医のいる動物病院
1-2ヶ月前より活動性が低下し、排便時に痛みを伴い細い便をするという理由で来院しました。身体検査にて肛門腫瘤(5.0×3.0×3.0cm)が見つかり、直腸検査、レントゲン検査および超音波検査では腰下リンパ節の腫大(2.5×2.8cm)が認められました。また、血液検査では高Ca血症(14.6mg/dl※)が認められました。
※血清カルシウム正常値9.3-12.3mg
肛門周囲に発生する肛門嚢アポクリン腺癌や肛門周囲腺癌は腰下リンパ節に転移しやすく、腫大したリンパ節は直腸を圧迫し排便障害を引き起こします。また、高Ca血症は腫瘍随伴症候群の一つで、肛門嚢アポクリン腺癌の患者の16~53%で認められます。
肛門腫瘤と腰下リンパ節に対してFNA検査を実施したところ、腫瘤は肛門嚢アポクリン腺癌と診断され、腰下リンパ節にも腫瘍細胞が見つかりリンパ節転移が疑われました。
高Ca血症に対する利尿薬や骨吸収抑制剤などの内科治療を行い、血清Ca値(10.0mg/dl)が下がったことを確認した後、肛門腫瘤の切除と腰下リンパ節の郭清(切除)を実施しました。
切除した肛門腫瘤は病理検査で肛門嚢アポクリン腺癌と診断され、腰下リンパ節には肛門嚢由来の腫瘍細胞が認められました。飼い主の希望で化学療法や放射線療法は実施しませんでした。
手術より238日後に、再び高Ca血症(12.6mg/dl)および腰下リンパ節の腫大(2.9×3.9cm)を確認し、術後252日には再び排便困難が認められたため、2度目の腰下リンパ節郭清を実施しました。肛門周囲に局所再発は認められませんでした。
2度目の手術以降、血清Ca値や排便状態は安定していましたが、最初の手術より495日後に再び高Ca血症(14.2mg/dl)を認め、X線画像では肺および腰椎への遠隔転移が見つかりました。
緩和治療を行いながら術後761日目に自宅にて亡くなりました。
診断時に肛門嚢アポクリン腺癌の所属リンパ節転移が存在する患者では術後生存期間は約1年とされていますが、腫瘤切除に加え腰下リンパ節郭清を行うことでHちゃんのように長期的な生存が期待できます。また、リンパ節郭清は腫瘍容積依存性の高Ca血症の改善につながるため必要に応じて複数回リンパ節郭清を実施することも選択肢となります。