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犬の甲状腺腫瘍(Canine Thyroid Gland Tumor)

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犬の甲状腺腫瘍とは

疫学

甲状腺は気管の第5-8気管輪の両側に1つずつ存在し甲状腺ホルモンを分泌している内分泌器官です。甲状腺腫瘍は犬に発生する腫瘍全体の1.2-3.8%を占めます。甲状腺腫瘍の90%は悪性の甲状腺癌(濾胞腺癌/髄様癌)です。性別に関係なく10-15歳齢で発生することが多く、好発犬種はゴールデンレトリバー、シベリアンハスキー、ビーグルです。一般的に甲状腺癌は局所浸潤性が高い腫瘍であり、領域リンパ節や肺などに転移します。両側の甲状腺に発生することもあり、ある研究では両側に発生する割合が約60%と報告されています。

症状

身体検査で偶発的に見つかることが多い腫瘍です。腫瘍の増大により近傍組織が障害されると、嚥下困難や喉頭麻痺、呼吸困難、発声障害、ホルネル症候群などの臨床症状を示すことがあります。甲状腺腫瘍の10%は機能性であり甲状腺ホルモンを過剰に分泌する甲状腺機能亢進症を伴うことがあります。

診断

超音波検査やCT検査により甲状腺から発生している腫瘍か判別ができます。特にCT検査は腫瘍の近傍組織への侵襲度合や他臓器への転移の有無を確認することができ、外科的切除が適切か判断する手段となります。ただし画像所見のみでは腫瘍の性質(良性/悪性)を判別することはできません。
実際に切除した甲状腺の病理検査により確定診断します。事前に針生検を用いた細胞診を行うこともできますが、甲状腺は血流が豊富な器官であるため出血のリスクが高く、また血液混入により正確な診断ができないことがあります。

治療

第一選択は腫瘍の外科的切除です。ただし、腫瘍の固着(周囲の組織との癒着)の程度が重度であったり、甲状腺周囲の気管、血管、神経などの組織を巻き込んでいる場合は外科的切除が困難または不適応となり、放射線治療や抗がん剤による化学療法が選択肢となります。

術後合併症

甲状腺の近くには反回喉頭神経や迷走神経があり術中操作等により傷害を受ける可能性があるため、喉頭麻痺や巨大食道症を発症することがあります。両側性に甲状腺を切除した場合は術後の甲状腺ホルモン不足が予測されるため、甲状腺ホルモン製剤の投与が必要になる可能性があります。また、甲状腺の前外背側と後部にはそれぞれ上皮小体(体内のカルシウム濃度を調節する内分泌器官)が付着しているため、両側性に切除した場合は術後の血中カルシウム濃度をモニタリングし低カルシウム血症に陥らないよう注意する必要があります。

予後

良性の甲状腺腫瘍の場合、外科的切除のみで完治可能です。一方、悪性の甲状腺癌は、固着の程度や転移の有無などいくつかの要因によって予後が変わります。周囲に固着していない片側の甲状腺癌の場合、外科的切除のみによる生存期間中央値は3年、2年生存率は70%です。
外科的切除ができない甲状腺癌に対して放射線治療を行なった場合、無増悪(治療中にがんが進行せず安定している状態)生存率は1年生存率が80%、3年生存率が72%です。
化学療法では、分子標的薬であるトセラニブを用いた犬の80%において臨床的な有益性を得られたとの報告がありますが、化学療法によって生存期間が延長したという報告は今のところありません。

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