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脊髄腫瘍(Spinal tumor)

脊髄腫瘍とは

脊髄とは、脳と連絡し頚椎から腰仙椎までの脊柱管内を伸びる太い中枢神経のことです。脳とからだの各部とを連絡し、知覚・運動の刺激伝達・反射機能などを司っています。
脊髄腫瘍(spinal tumor)は脊髄に関連する周囲組織に発生する腫瘍の総称です。脊髄腫瘍は主に中高齢の犬猫に発症し、基本的な病態や腫瘍の種類は脳腫瘍と類似しますが、いくつかの点では脳腫瘍とは異なる特徴を持ちます。

腫瘍の種類

脊髄は脳と同様に“硬膜”という膜に覆われており、硬膜および脊髄実質と関連した腫瘍の発生部位により①硬膜外②硬膜内髄外③髄内腫瘍に分類されます。脊髄腫瘍の内訳は、硬膜外腫瘍50%、硬膜内髄外腫瘍27-35%、そして残りが髄内腫瘍と報告されています。
 
脊髄腫瘍の例は以下の通りです。

硬膜外腫瘍
・骨肉腫
・線維肉腫
・軟骨肉腫
・血管肉腫
・骨髄腫
・転移性腫瘍(リンパ腫、肉腫、腺癌など)
硬膜内髄外腫瘍
・髄膜腫
・末梢神経鞘腫
・腎外性腎芽腫
・転移性腫瘍
・髄腔内転移による腫瘍(脈絡叢乳頭腫など)
髄内腫瘍
・神経膠腫(星細胞腫、乏突起神経膠腫、膠芽腫)
・上衣腫
・腎外性腎芽腫
・転移性腫瘍
・髄腔内転移による腫瘍

このように、脊髄の腫瘍は発生場所ごとに大まかな腫瘍の種類を予想することができます。

  • MRI T2強調画像:第1頸髄の髄膜腫
  • A: MRI:第1胸椎に発生した骨髄腫により脊髄の重度の圧迫が認められる。B: 腫瘍による第1胸椎の骨吸収像が確認される。

症状

進行性の脊髄障害や傍脊髄痛、感覚異常などが挙げられます。腫瘍の大きさや腫瘍が脊髄のどの領域に発生しているかによって様々な脊髄障害(麻痺・運動失調・排尿排便障害など)を生じます。腫瘍ごとに好発領域はあるものの、脊髄腫瘍は脊髄のどの領域にも起こり得ます。より細かな症状の把握や神経学的な評価は病変の局在化において重要となります。

診断

神経学的検査による病変の局在化に加えCTやMRIなどの高度画像診断機器を用いて診断を行うことが一般的です。CSF検査も有用となる場合があります。また、レントゲン検査による骨病変の評価や脊髄造影検査による脊髄と腫瘍との位置関係の評価も有用な診断ツールとなります。最終的には採取した腫瘍組織の病理学的検査によって確定診断を行います。

治療

主に外科療法、化学療法、放射線療法の3つが挙げられます。腫瘍の種類により治療の選択肢は異なりますが、硬膜外腫瘍や硬膜内髄外腫瘍の多くは外科的な治療を行うことが一般的です。MRI画像などの情報から手術プランを立て腫瘍の切除あるいは脊髄の減圧を目的とした手術を行います。また、切除した腫瘍の病理学的な診断に基づいて化学療法や放射線療法などの補助療法を選択します。
硬膜外腫瘍の場合、特に脊椎腫瘍では腫瘍が脊椎を破壊するように増殖していることが多々あります。このため、症例によっては外科的な治療の際に脊椎の再建や固定術も同時に行わなければなりません。転移性腫瘍の場合は原発巣やその他の転移巣を確認した上で外科的な治療あるいは化学療法などを選択しなければなりません。
硬膜内髄外腫瘍では、硬膜切開後に腫瘍と脊髄との境界を分けて腫瘍を摘出します。また、神経鞘腫の場合末梢神経に腫瘍が浸潤していることが多く、神経根切除や断脚術が必要となることもあります。
髄内腫瘍では脊髄を切り開いて腫瘍を露出しなければならないため脊髄への侵襲を最小限に留めることが重要です。特に星細胞腫などは脊髄との境界が不明瞭な場合が多く、その場合腫瘍の全てを摘出することは困難です。腫瘍の減容積に留まる、あるいは腫瘍の一部のみを切除し病理診断のための生検に留まる場合もあります。よって多くの症例で術後は放射線療法や化学療法が必要となります。

  • 第1胸椎に発生した骨髄腫。第1~3胸椎の椎弓切除による脊髄減圧と同部位の椎体固定手術。本症例は化学療法を継続した。

予後

人医療において脊髄腫瘍には様々な予後関連因子(腫瘍の発生部位、大きさ、種類、グレード、診断時の転移、術式、併用療法など)が存在します。獣医療では脊髄腫瘍の治療報告数に限りがあるため予後に関する詳細なデータは十分とは言えません。さらに予後関連因子や治療効果の指標(生存期間、Relapse Free Survival、Response Rate  etc...)など予後を決定する要因は非常に多岐にわたるため、脊髄腫瘍の多くは明確な予後を言い表すことが難しいとされています。1ヶ月ほどで局所再発を起こし亡くなってしまう子がいる一方、1回の手術のみで再発することなく余生を過ごせる子もいます。いずれにしても早期の発見と適切な治療を行うことが重要となります。

  • 骨肉腫

骨肉腫は犬猫の原発性脊椎腫瘍で最も一般的な腫瘍です。腫瘍の浸潤の強さと解剖学的な切除領域の制限から腫瘍の局所制御は難しいとされています。また、骨肉腫は高率に肺などの組織に遠隔転移を生じることも知られています。治療としては外科的な腫瘍切除と抗がん剤や放射線療法の併用が推奨されます。おおよその生存期間中央値は55-155日です。早期治療を行った場合1年以上生存が確認できた症例も報告されています。また放射線療法を行う場合緩和的放射線療法より根治的放射線療法のほうが良好な予後が期待できます。

  • リンパ腫

リンパ腫は犬猫の脊髄に原発性あるいは二次性に発生する悪性度の高い腫瘍です。特に猫では脊髄疾患の27%がリンパ腫を原因とし、猫の脊髄腫瘍の35-38%を占めます。またFeLV陽性の若い猫ではリンパ腫の発生率が増加することが知られています。脊髄リンパ腫の診断には腫瘍の生検以外にリンパ節の針生検や脳脊髄液検査が有用となる場合があります。治療は主に化学療法を行います。リンパ腫の抗がん剤への反応率は非常に高く(70-100%)多くの症例で一時的な寛解が得られます。生存期間は中央値5-7ヶ月とされており、一部の症例では1年以上の生存も確認されています。

  • 髄膜腫

髄膜腫は犬で最も一般的な脊髄原発の腫瘍で、犬の頸髄に好発することが知られています。ごく一部の悪性度の高いものを除き多くの髄膜腫は良性の挙動を示します。外科的な腫瘤切除後の予後は他の脊髄腫瘍と比べ良好で、外科治療後の無症状の期間と生存期間は3ヶ月以上とされています。複数の報告による生存期間中央値は19ヶ月でその範囲は4ヶ月から4年でした。一方で局所再発率は高く、多くの症例が症状の再発を起こします。症状の改善を目的とした2回目の外科治療が有効な場合もあります。

  • 悪性神経鞘腫

神経鞘腫とは、末梢神経または神経根の軸索を覆うシュワン細胞由来の腫瘍で、犬で髄膜腫と並んで最も一般的な原発性の腫瘍です。犬ではそのほとんどが悪性とされ局所的に強い浸潤を示します。犬の悪性神経鞘腫は全身のあらゆる末梢神経に発生しますが、特にC6-T2領域の神経根や腕神経叢に好発します。また、遠隔転移は稀であるとされています。治療法として放射線療法や化学療法は補助的治療とされており、腫瘤の外科的な切除が最も一般的です。悪性神経鞘腫の外科治療に関する報告は散見されますが、特に脊柱管内に発生した症例の報告数は限られています。過去の報告によると、脊柱管内に発生した悪性神経鞘腫の生存期間中央値は5ヶ月、手術から再発までの期間は中央値30日でした。さらに局所再発率は91%で手術後症状の改善が得られなかった症例も33%存在しました。全体的な予後は不良ですが、学会報告レベルで術後2年以上症状の改善が得られた症例なども散見されます。