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肺腫瘍/肺がん(Pulmonary neoplasia/Lung cancer)

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肺腫瘍、肺がんとは

  肺腫瘍は肺組織を起源とする“原発性肺腫瘍(肺がん)”と他臓器の悪性腫瘍が肺に転移した“転移性肺腫瘍”に分類されます。
原発性肺腫瘍は、人では患者数の最も多い悪性腫瘍 (約60-130/100,000人、がん関連死亡数1位、罹患数3位)ですが、犬猫の原発性肺腫瘍の罹患率は高くありません(米国:4.2/10,000頭、英国:15/100,000頭)。犬猫の原発性肺腫瘍の約90%は肺腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌などの悪性上皮性腫瘍(癌)です。原発性肺腫瘍発症のリスク因子として喫煙者による副流煙、汚染物質(アスベストなど)が多い環境、短頭種(ブルドッグ、パグなど)などが知られています。
  犬猫の肺腫瘍の多くは転移性腫瘍です。多くの悪性腫瘍は肺に転移する可能性があり、腫瘍死した犬全体の30%に肺転移があったという報告もあります。特に骨肉腫、乳腺癌、移行上皮癌、悪性黒色腫、甲状腺癌などは肺転移を起こしやすい腫瘍です。
※腫瘍=悪性も良性も含まれる、がん=悪性腫瘍全般、癌=悪性上皮性腫瘍、肉腫=悪性非上皮性(間葉系)腫瘍

症状

  初期症状として咳や痰が認められ、続いて喘鳴音を伴う呼吸障害、体重減少、元気消失などが現れます。巨大な腫瘤が胸腔内を占拠すると重度の呼吸障害や食後の吐出が見られます。肺腫瘍が原因で生じる肥大性骨関節症(四肢末端の腫れや骨反応)の為に跛行することがあります。腫瘍が原因で胸水が溜まると呼吸状態はさらに悪化します。
  一方で肺腫瘍を持つ犬猫は症状を示さないことも多く、過去の報告では原発性肺腫瘍を持つ犬の25%が無症状でした。健康診断や術前検査などで肺腫瘍が偶然みつかることもあります。

診断

  胸部の4方向X線撮影またはCT撮影を行います。胸部X線撮影は全身麻酔を必要としませんが、肺腫瘤の直径が7-8mm以上ないと診断できません。小腫瘤の診断精度はCTの方が優れ、直径1mmほどの病変でも診断できます。典型的な原発性肺腫瘍は孤立性腫瘤として1つの肺葉に限局して発生し、転移性肺腫瘍は多発性に複数の肺葉に発生する傾向があります。転移性腫瘍が疑われる場合は腫瘤の吸引針生検(Fine Needle Aspiration)や胸水の細胞診検査で腫瘍を診断できる可能性があります。孤立性腫瘤の場合は生検を行わずに外科的切除後に病理診断します。

  • 肺腺癌:後葉に孤立性の腫瘤が認められる(孤立性病変)
  • 移行上皮癌の肺転移:左右の後葉に1つずつ腫瘤が認められる(複数病変)
  • 骨肉腫の肺転移:肺野全体に複数の腫瘤が認められる(複数病変)

治療

  犬猫の肺は7葉に分かれており、全肺容積の約60%までの切除であれば術後に深刻な呼吸障害は生じないとされています。一般的には肋間開胸術や胸骨正中切開により肺葉ごと腫瘍を摘出する全肺葉切除術を行います。限局した病変に対する部分的肺葉切除や手術内視鏡を用いた切除を行うこともあります。リンパ節転移の評価の為に肺門リンパ節の切除を行います。手術後は胸腔チューブと低圧持続吸引器を用いて胸腔から胸水や空気を持続的に除去します。外科的切除不可能な患者には抗がん剤療法や放射線療法を行うことがあります。

  • 肋間開胸術の様子

予後

  原発性肺腫瘍に対し外科治療を行った犬全体の生存期間中央値は361日です。生存期間の予後関連因子として、臨床症状の有無 (240日vs545日)、孤立性病変と複数病変(790日vs196日)、病理学的な悪性度 (gradeⅠ:790日vs gradeⅡ:251日vs gradeⅢ:5日)、リンパ節転移の有無(26日vs452日)などがあります。
  猫の原発性肺腫瘍の外科治療後の生存期間中央値は115日で、予後関連因子として臨床症状の有無(4日vs 578日)、腫瘍の組織学的悪性度が未分化と中等度分化(75 日vs698日)、リンパ節転移の有無(65日vs 498日)などがあります。
  転移性肺腫瘍の予後は腫瘍の種類と原発巣によって様々ですが、基本的に肺転移が見つかれば患者は進行がんや末期がんという病期にあると考えられます。

 Withrow and MacEwen's Small Animal Clinical Oncology, 6e

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