日本小動物外科専門医のいる動物病院
浅趾屈筋およびその腱は総踵骨腱の浅層を構成し、踵骨隆起近位では腓腹筋の内側面を深層から浅層に横切り、腱が広がり踵骨隆起を覆い両側に付着します。その後、足根の遠位足底面で腱が2つに分かれ、各々の枝がさらに2つに分岐し、第2~5趾の中節骨底に付着する4本の腱を形成します。浅趾屈筋は、主に第2~5趾の近位2関節の屈曲に寄与します。浅趾屈筋腱脱臼は浅趾屈筋腱が踵骨隆起から逸脱する病態であり, その方向により内方脱臼および外方脱臼が報告されています。
浅趾屈筋腱脱臼は比較的まれな疾患で、シェルティーやコリーでの発生が報告され、シェルティーではその遺伝的背景が明らかになりました。浅趾屈筋腱脱臼報告の多くは内側支帯裂開に起因する片側性外方脱臼ですが、両側性や内方脱臼の報告もあります。
外方脱臼が多い原因として、踵骨隆起の両側に付着する支帯のうち、内側支帯が外側支帯と比較し脆弱であること、足根関節屈曲時の生理的外反による内側支帯への負荷などが挙げられます。
その他、罹患犬に認められる踵骨隆起の溝の低形成や欠損も浅指屈筋腱脱臼の原因として報告されています。
間欠的な跛行、踵骨外側または内側の疼痛、腫脹がみられます。
足根関節伸展時の脱臼整復、屈曲時の再脱臼に伴うpopping sensationを触診します。
保存的療法の効果は限定的で、一般的に外科的整復が必要で、裂開した内側または外側支帯の縫縮および滑液包切開による内部組織線維組織を除去します。
当院では、踵骨隆起の溝の低形成を認めた症例への踵骨隆起の造溝術、皮質骨スクリューやピンを用いた付加的な安定化術を追加しています。
外科的整復の予後は一般的に良好ですが、整復までに浅趾屈筋腱周囲の線維組織増生を伴う症例や踵骨隆起の低形成を認める症例では術後の再発が報告されています。
当院にて踵骨隆起の低形成に対し造溝術を併用した症例での再発は現在認められていません。