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両側乳腺切除術(Bilateral mastectomy)

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  4. 両側乳腺切除術

両側かつ多発性に発生した乳腺腫瘍に対して、片側乳腺全切除術を段階的に両側に実施することが推奨されています。
その理由として、十分な切除縁を確保して両側乳腺切除を実施した場合、創縁の縫合がきわめて困難で、また手術侵襲や術後疼痛の増大、完全切除ができない可能性などがあります。
しかしながら、段階的な治療を行うことで動物および飼い主様への負担が増えること、また猫の乳腺癌では積極的な治療(根治的両側乳腺切除術)が望ましいことから、1度の手術で全乳腺切除を行うための工夫がされています。
まず、2回の片側乳腺全切除術を段階的に行った猫の症例を、次にスキン・ストレッチング・テクニックにより術前に皮膚を伸展した後に、1度の手術により両側乳腺全切除術を実施した犬と猫の症例をそれぞれ紹介します。

片側乳腺全切除術を段階的に行う両側乳腺切除術

症例

雑種猫、12歳、未避妊雌
既往歴:1年前に脾臓肥満細胞腫、脾臓摘出および化学療法を実施しました。

  • 右第2乳腺腫瘤を認め、右側の片側乳腺全切除術を計画
  • 3週間後、左側の片側乳腺全切除術を実施した。

病理検査の結果は乳腺癌であった。心不全で亡くなるまで術後42か月生存しました。

 

 

スキン・ストレッチャーを用いた両側乳腺全切除術 (Bilateral radical mastectomy using skin stretcher)

症例1

ミニチュアダックスフンド、12歳、未避妊雌
右側第2、4、5乳腺および左側第1-5乳腺に多発性の腫瘤性病変を認めました。
針生検では乳腺腫瘍が疑われ、スキン・ストレッチャーを用いて両側乳腺全切除を実施しました。

  • スキン・ストレッチャーの材料。スキンパッド、弾性ケーブル、接着剤からなる。

マーキングから装着4日後および手術日までの皮膚の様子。切開想定ラインが接するまで皮膚が伸展したことを確認している。

 

創縁の縫合は問題なく実施可能でした。術後の病理検査の結果、左側第3-5乳腺腫瘤は悪性度が高く、炎症性乳癌への移行が危惧されました。

 

術後16週目の定期検診時に肺転移を確認、術後18週目に死亡しました。

 

症例2

雑種猫、12歳、避妊雌
1年前より右側第3、左側第4乳腺部に腫瘤があり、針生検では乳腺線癌が疑われました。
体表リンパ節の腫脹や胸部レントゲンでの肺転移所見はありませんでした。

右からマーキング、スキンパッド装着、装着直後、装着3日後(手術当日)。6〜12時間おきに徐々に張力をかけました。

創縁の縫合は問題なく、縫合部の離開や漿液貯留などの術後合併症は認められませんでした。
術後の病理所見は乳腺腺癌との診断で、鼠径リンパ節に転移性病変が認められました。
局所の摘出状態は良好でした。術後の補助療法は実施せず、術後10ヶ月目で胸水貯留と癌性胸膜炎を認めました。

これらの新しい治療法についての方法、成績、合併症などをまとめた論文が、獣医外科学の最高権威である米国のジャーナル Veterinary Surgeryに掲載されました(筆頭著者:宮﨑)。論文タイトル:Use of skin stretchers for single-stage bilateral mastectomies for a dog and a cat.(PMID: 29119572) 

他にも部分乳腺切除術および片側乳腺全切除術部分乳腺切除術および領域乳腺切除術を実施した症例も紹介しています。

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