肝臓腫瘍は、腫瘍の種類や発生形態によって有効な治療方法や予後が大きく異なります。肝臓腫瘍の約80%を占める肝細胞系腫瘍(肝細胞癌など)は、孤立性の発生であれば外科治療により極めて良好な予後が期待できるため、適切な診断とステージングにより治療のチャンスを見逃さないことが重要です。
肝臓腫瘍とは
犬と猫の肝臓腫瘍は、肝臓組織に発生する原発性肝臓腫瘍と、脾臓・膵臓・消化管腫瘍などの他臓器の悪性腫瘍が肝臓に転移する転移性肝臓腫瘍があります。原発性肝臓腫瘍は、肝細胞癌・肝細胞腺腫などの肝細胞系に由来する腫瘍、胆管癌・胆管腺腫などの胆管系に由来する腫瘍、神経内分泌腫瘍、肉腫などがあります。腫瘍の発生形態により、腫瘤が単一の肝葉に限局している塊状型、結節が複数の肝葉に存在する結節型、全ての肝葉に結節があるびまん型に分類されます。
- 肝細胞系腫瘍
良性の肝細胞腺腫と悪性の肝細胞癌があります。肝細胞癌は犬の原発性肝臓腫瘍で最も多い腫瘍で、猫でも発生します。形態学的には53%〜83%が塊状型、16%〜25%が結節型、〜19%がびまん型であると報告されています。領域リンパ節、腹膜、肺などに転移することがあり、特に結節型とびまん型では転移率が高いです。
- 胆管系腫瘍
良性の胆管腺腫と悪性の胆管癌があります。犬と比較して猫での発生が多く、胆管癌は猫の原発性悪性肝臓腫瘍の中で最も多く発生します。形態学的発生部位は肝細胞癌と似ており、37%〜46%が塊状型、〜54%が結節型、17%〜54%がびまん型です。肝細胞癌と比較して悪性度が高く、領域リンパ節や肺に高率に転移します。
- 神経内分泌腫瘍、肉腫
肝臓原発の神経内分泌腫瘍や肉腫は比較的稀で、肉腫は血管肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、組織球性肉腫などが発生します。血管肉腫は原発性腫瘍よりは転移性腫瘍が多く、脾臓や右心に発生した血管肉腫が肝臓に転移することが一般的です。神経内分泌腫瘍と肉腫はいずれも悪性度の高い腫瘍が多く、脾臓や肺に高率に転移します。
様々な外貌の肝臓腫瘍
症状
症状の多くは非特異的で、食欲不振、嘔吐、体重減少、多飲多尿などが認められます。無症状のこともあり、健康診断などにより偶発的に見つかることがあります。腫瘍の増殖により肝機能が低下すると、低血糖や肝性脳症を起こし、けいれん、虚脱、運動失調などがみられることがあります。腫瘍が巨大化して破裂し腹腔内出血が起こると、意識混濁、チアノーゼなどのショック症状が認められることがあります。
診断
血液検査、X線検査、腹部超音波検査、CT検査などを組み合わせて診断します。血液検査ではALT、AST、ALP、GGTなどの肝酵素上昇、低血糖、低アルブミン血症、高ビリルビン血症、貧血などが認められます。X線検査・腹部超音波検査・CT検査などの画像検査では、腫瘍のサイズ、発生部位、腹水の有無、門脈や肝静脈との関連性、造影剤の流入様式、転移の有無などを評価します。これらの検査所見をもとにステージングを行い、治療方針を決定します。
リンパ腫や肥満細胞腫などの独立円形細胞腫瘍は細胞診で診断できることがあります。診断のために細胞診が有用である腫瘍、細胞診では評価が困難で病理組織検査を必要とする腫瘍など、腫瘍の種類によって診断の方法や精度が異なります。
治療と予後
- 肝細胞癌:腫瘍の発生部位や転移の有無にもよりますが、一般的に外科治療が推奨されます。特に、腫瘍が単一の肝葉に限局した塊状型では、比較的進行が遅く転移率も低いため外科治療により良好な予後が期待できます。結節型や浸潤型は予後が悪いと考えられていますが、腫瘍の破裂による出血を防ぐための緊急手術やQOLを改善するための緩和的外科治療、放射線治療、Interventional radiologyを用いた動脈塞栓、動注化学療法などを実施することがあります。
- 胆管癌:塊状型胆管癌に対しては外科治療が推奨されていますが、外科治療後に局所再発や転移を起こすリスクが高く、多くの症例が6ヶ月以内に亡くなるため予後は良くありません。結節型や浸潤型の胆管癌に対する外科治療は適用されないことが多く、化学療法や放射線治療の効果も十分に検証されていません。
- 神経内分泌腫瘍、肉腫:塊状型の肉腫に対しては外科治療が実施されることがありますが、診断時の転移率が高く予後は良くありません。
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