日本小動物外科専門医のいる動物病院
ペキニーズ、4歳、避妊雌、体重4.8㎏
2日前に同居犬とけんかした後から昨日にかけて、後肢が立てなくなったとの主訴で受診されました。
歩行不可能な両後肢不全麻痺、両後肢の姿勢反応消失、四肢の脊髄反射は正常であり、T3-L3脊髄分節の障害が疑われました。
X線検査およびCT検査にて、T12-13椎間板腔の狭小化、T13左側後関節突起無形成を認めました。
脊髄造影検査および脊髄造影CT検査にて、T12-13-L1-2椎間に腹側右寄りの脊髄圧迫病変を認め、椎間板ヘルニアと診断しました。
T12-13-L1-2椎間に対する右側片側椎弓切除術による脊髄減圧を実施しました。
犬種、関節突起の異常、および術中の用手操作から同椎間の脊椎不安定症と診断し、ポジティブスレッドピンとPMMAによる椎体固定術を実施しました。
経過は良好で、退院時には歩行可能となりました。
動画は手術から2週間後の歩様です。
ダックスフンドやビーグルなどの軟骨異栄養性犬種に多い胸腰部椎間板ヘルニア(ハンセンI型)は、深部痛覚を失う前に脊髄減圧術を行えば97~98%で神経症状が改善します(PMID: 23216037)。
一方、パグやペキニーズの胸腰部椎間板疾患は、通常の脊髄減圧術単独では神経症状が改善しない可能性があります。パグの胸腰部椎間板疾患では脊椎関節突起の先天的な形成異常に関連する脊椎不安定症がある為、通常の脊髄減圧術に椎体固定を併用する必要があることを報告しています(PMID: 35577348)。当院ではペキニーズの胸腰部椎間板疾患にも脊椎関節突起の先天的形成異常による脊椎不安定症が関与することを疑い、脊髄造影ストレス撮影やCT造影検査により脊髄動的圧迫、術中の用手操作により脊椎不安定性を確認した患者には通常の脊髄減圧術と併せて椎体固定術を行なってきました。本疾患に対する画像検査法、治療法、良好な治療成績について2021年のヨーロッパ獣医外科学会(ECVS: European College of Veterinary Surgeons)で発表し、2023年に米国獣医師会の公式ジャーナルJournal of the American Veterinary Medical Association誌に掲載されることが決定しました(PMID: 37406996)。