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セメントレス股関節全置換術(Cement-less Total Hip Replacement)BFX法

  1. 専門分野
  2. 骨関節外科
  3. 後肢の関節疾患
  4. 股関節形成不全(股異形成)
  5. 股関節全置換術

股関節全置換術(THR)とは

股関節全置換術(THR)はヒト医療では確立された治療法であり、犬の股関節疾患に対しては1983年より関節機能の良好な回復が期待できる有効な治療法として報告されました。
当時採用されたのは、ヒトで使用されていた方法を犬用に改良し、骨セメントを使用して骨とインプラントを固定する方法(セメント法)で、適用の容易さや幅 広い症例に応用できるなどの長所をもち、欧米の獣医外科専門医たちにより2000年までに数千例の症例に適用され一世を風靡した治療法でした。
臨床データが蓄積するにつれ手術の不手際による脱臼、骨折の他、血栓症、インプラント感染などの深刻な合併症が多数報告され、特に手術が成功して良好な機能を回復した犬においても6~8年の期間でセメントとインプラントの間に無菌性のゆるみが起こることがわかりました。
その後、耐用年数が短いセメントTHR法は、できる限り施術年齢を遅らせる必要があるなど、犬の股関節形成不全症に対する第一選択の治療法ではなくなりました。

ノースカロライナ州立大学の外科専門医のグループにより開発され、2003年から臨床応用されたBioMedtrix社製のセメントレスTHR法 (BFX法)は、セメントを使用せず、インプラントを埋め込むために正確にインプラント型に形成した骨にインプラントを打ち込んで圧着させ(press fit)、その後インプラントの表面の細かい間隙に骨が入り込むことでインプラントが安定化する方法です。この方法は技術的難易度が高く、インプラント形 態とサイズにより適用症例も限定されますが、いったん生着したBFXインプラントにはセメント法のような耐用年数の問題がないために、1歳未満の若い症例 にも適用することができ、生涯にわたる良好な関節機能を期待できます。
このシステムのもう一つの特徴はBFXインプラントを使用できない状況ではCFXインプラントを組み合わせて用いることも可能で、寛骨臼にはBFXカップ を使用し、大腿骨にはCFXステムを使用するといったように両者を組み合わせて使用することも可能です(ハイブリッド法)。

患者紹介

  • 手術当時のナツちゃん

ゴールデンレトリバーのナツちゃんは生後6ヵ月齢の時に股関節形成不全と診断されました。
両股関節が亜脱臼し、また関節可動域は減少し、ひどい痛みのために快適な日常生活を送ることができませんでした。
数か月間の体重管理、運動制限を行いましたが、症状は改善せず、17ヵ月齢の時点で右股関節全置換術を行いました。
術後10日目には患肢の負重が認められるようになり、その後は計画的なリハビリを実施して、やがて激しい運動も可能になりました。

術後経過

術後8年経過していますが、年一回の検診でも感染、脱臼、インプラントの緩み等の合併症はなく良好な歩行機能を維持しながら快適に生活しています。

  • 9歳のナツちゃん
  • 手術前のレントゲン写真
  • 手術から8年後のレントゲン写真

 

 

手術から10年以上が経過して元気に歩く様子をみせに来てくれました。痛みもなく走っていました。
ナツちゃんのように片側のTHRでも十分な日常生活が可能ですが、更に活発な運動レベルを期待する場合には両側のTHRを実施することもあります。

  • X線検査
  • 右側に入れたTHRインプラントは問題なく、筋肉はよく発達し経過は良好です。左側の肢の筋肉は右側に比べて細く、ナツちゃんは手術した肢を使って活発に生活しているようです。

数年前まで一般的であった従来のセメント法では高い成功率が報告されている一方、無菌性のインプラントの緩み、大腿骨骨折、感染や脱臼などが問題となることが多く、このような背景から近年ではセメントレス法による治療が主流となっていました。
開発当初は成功率が高く合併症も少ないとの報告が多くを占めていましたが、最近の報告ではセメントレス法においても術中の亀裂骨折やインプラントの脱臼・ 緩み・沈降、大腿骨の骨折、感染などが比較的高い割合で生じることが発表されました(Kidd SW. VCOT 2016)。
しかしながら、これらの合併症は適切な対処を行えば予後は良好な場合が多く、また術後管理も合併症を最小限にするためには非常に重要です。
手術を行うにあたっては、高度な専門技術のみならず合併症の発生率や対策法を熟知しておかなければなりません。
治療方法の決定に際しては患者の年齢や体重、犬種などを考慮し、手術の危険性や合併症の可能性などを飼い主様に説明しています。

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