日本小動物外科専門医のいる動物病院
単一性肝外シャントは開腹手術時に確認でき、門脈圧を空腸静脈あるいは脾静脈にカテーテルを挿入して測定しながらシャント血管を絞扼します。
術後の門脈高血圧を防ぐために正常門脈圧(8~12mgHg)に対して、絞扼後に18mmHgを超えない、絞扼前と比較して10mmHg以上の上昇をさせない等の基準に基づいて絞扼し門脈血を肝臓に流し込みます。
術中の門脈圧測定は麻酔中の血圧変動、手術中の患者の体位や腹腔臓器の位置的変化などの要因から正確な評価には限界があり、術後に門脈高血圧を起こす事があります。
シャント血管絞扼時の消化管と膵臓の色調の青灰色への変化、消化管の過剰な運動性は門脈高血圧を示唆する変化で、動脈圧および中心静脈圧の低下は門脈血が全身循環に流入していないことを示します。
絞扼時の門脈圧が基準値を超えるため完全結紮できないときには、安全な範囲で部分結紮し、数か月後に肝臓内の門脈が発達した後、再手術で完全結紮を試みてきましたが、現在では時間をかけて徐々に門脈を絞扼する様々な方法が開発されています。
犬の単一性肝外シャントの一般的な予後は良好で、2歳齢までに外科治療を受けた症例の95%で臨床症状の回復が期待できます。
高齢になって治療を受けた犬および猫における予後は、それより良くないと言われています。
ステンレスの外周とアメロイドの内周によって構成されるリングで様々なサイズがあります。
アメロイドは乾燥圧縮されたカゼイン(乳汁中の燐蛋白質)で、水分を吸収して徐々に膨張して血管を閉塞します。
全身静脈に流入する直前のシャント血管を分離しアメロイドリングを装着します。
その際に血管を傷つけると炎症による血管の浮腫、血栓形成、あるいはアメロイドリングの重みや装着による血管の折れ曲がりによる血管内腔の急速な閉鎖の恐れがあるために注意を要します。
装着後の門脈圧に変化がないことを確認して手術を終えます。
アメロイドリングは絞扼し始めるタイミングを遅らせる効果がありますが、絞扼し始めると比較的急速に完全閉塞してしまう結果、肝門脈の発達が間に合わず門脈高血圧症が起こる可能性があります。
門脈閉鎖症など門脈の先天性の異常がある症例にはアメロイドリングは使用できません。
シャント血管に巻き付けて装着したセロファンに対する組織の炎症反応によりゆっくりと絞扼し、アメロイドリングより緩徐な絞扼を期待する方法です。
術中の試験的絞扼時に門脈圧が安全基準以上に上昇して完全閉鎖が期待できない症例や門脈低形成の症例に対して選択します。
シャント血管を完全に絞扼できない可能性があります。
シャント血管を絞扼部(矢頭部)に装着し、術後に皮下に埋め込んだ注水部(矢印)に注射器で注水して圧力を調節しながら高めて段階的に絞扼する。
肝臓内門脈シャントは胎仔静脈管の開存あるいは肝臓実質内での先天性の門脈-静脈シャントが存在するもので、主に大型犬にみられます.
肝外および肝門部に流入する門脈には異常が認めらませんが、肝内でシャント血管につながる肝静脈や門脈は血液の乱流により拡張していて肝臓実質の触診により嚢状に膨らんでいて圧迫すると腹腔臓器に門脈高血圧を示す変化が確認できます。
超音波検査、門脈造影検査、CT検査等により確定診断します。
肝内性シャントの外科治療法は肝外シャントと比較して難易度が高く、シャントの部位によって適用する術式が様々で、低体温麻酔、輸血、肝臓の血行遮断、後大静脈切開などの特殊な処置を伴うことがあります。
従来の肝実質を剥離しシャント血管を分離する方法には、肝実質からの出血、嚢包状のシャント血管の結紮の難しさや管損傷による大量出血の危険があります。
肝臓実質内のシャント血管が触診によって確認できないときは、肝臓の血行を遮断して肝臓頭側の後大静脈を切開し異常に拡大している肝静脈の開口部位を探索する方法、または門脈からカテーテルを挿入してシャント血管を通過させその開口部位を確認する方法があります。
肝左葉に肝内シャントがある場合は外側左葉と内側左葉の肝静脈枝は肝実質内で合流した後、肝臓の最も頭側において後大静脈に合流します。
この合流部は肝臓の頭側表面に近いため、最小限の肝実質の分離によりその肝静脈枝を結紮する事ができます。
シャント血管を結紮する方法、アメロイドリングを装着する方法、セロファンバンド法などが試されています。
肝実質を剥離することなくシャント血管を確認し、シャント以前の門脈枝、あるいはシャント以後の肝静脈枝を閉塞するために、テフロンの板を使ったマットレス縫合をシャントの開口部を挟むように装着し、後大静脈の縫合を行って血行を戻した後、門脈圧を測定しながらシャント血管を圧迫する方法もあります。
また肝内シャントの開口部を完全に閉塞すると共に、頚静脈移植による肝外性のシャントを後大静脈と門脈の間に作り、それにアメロイドリングを装着する方法も試みられています。
グレートピレネース、1歳齢、雄
慢性肝疾患による多発性肝外シャントの外科的治療の目的は、肝臓に門脈血を再循環させて肝臓の機能回復を期待するものです。
その効果は病態によって様々で、予後の判定は困難です。
一般的には約50%の症例で臨床症状の改善を期待しますが、肝臓基礎疾患の病態により長期的な効果が得られないことも多くあります。
肝臓尾側の後大静脈と門脈の両方にカテーテルを装着し、後大静脈圧が門脈圧より高くなるように後大静脈を絞扼します。
この圧隔差により門脈血が後大静脈に流入するのを防ぎます。
予後判定のために肝臓バイオプシーを行います。
マノメーターによる門脈圧、および後大静脈圧の同時測定を実施しながら後大静脈を絞扼します。
フレンチブルドッグ、6ヵ月齢、雌。1ヶ月前から体重減少、嗜眠、虚弱、元気・食欲消失、食後の間欠的な吐き気と痙攣発作を主訴に来院しました。
顕著な体重減少、削痩、中等度の腹水貯留が疑われ、肝臓の右側領域に機械様雑音が聴取されました。
血液検査及び肝臓機能検査にて門脈シャントと診断されました。
腹水貯留、小肝症、肝臓内側右葉の実質内に蛇行したシャント血管が認められます。
肝臓左葉は小さいが、実質内に異常は認められません。
本患者の門脈シャントの臨床症状は消失し、体重も増え10年以上経過した現在も症状の再発はありません。
肝動静脈婁による門脈シャントの治療後として、報告されている中で、内科治療も必要なく世界で最も長く生存している症例です。