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馬尾症候群(Cauda equina syndrome)・腰仙椎疾患(Lumbosacral disease)

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  3. 馬尾症候群・腰仙椎疾患

馬尾症候群・腰仙椎疾患とは

脊髄は脊椎の脊柱管内を尾側に向かい、その尾端は中型〜大型犬では第6腰椎、小型犬は第7腰椎、猫では第7腰椎から仙骨で終息します。それより尾側の脊柱管内では脊髄から出た神経根の束が仙骨、尾骨に向けて伸びています。この神経根の束は馬の尾の形態に似ていることから馬尾神経と呼ばれ、馬尾神経に障害を起こす疾患を総じて「馬尾症候群」と呼びます。
腰仙椎椎間板の加齢に伴う変性性変化による椎間板の突出、腰仙椎関節の不安定性による関節包や椎体を連結する靭帯の肥厚、椎体の骨増生による脊柱管狭窄などが原因となり脊髄や神経根が圧迫されて発症するため、「腰仙椎疾患」「腰仙椎狭窄症」とも呼ばれます。
その他、椎間板脊椎炎、骨折、腫瘍、先天性の腰仙椎の奇形などに伴って馬尾神経は障害されます。
シェパード、レトリーバー、バーニーズマウンテンドッグ、ワイマラナー、ダルメシアン、オールド・イングリッシュ・シープドッグなどの大型犬に多く、中〜小型犬や猫にもみられます。

症状

初期症状は、腰仙部痛によりジャンプをしなくなることや尾を振らなくなるなどが挙げられます。進行すると後肢の跛行や麻痺、運動失調のために、運動や階段の昇降が困難になります。症状がより重症化すると後肢や尾の麻痺、尿失禁や便失禁が起こることもあります。

診断

後肢の整形外科的疾患(股関節形成不全、前十字靭帯断裂)と併発することも多く、診断には獣医外科専門医や整形外科、神経外科の専門的トレーニングを受けた獣医師による診察を受けることが重要です。歩行検査、神経学的検査、整形外科的検査、X線検査など総合的な検査を行い、この疾患が疑われた場合は確定診断のためにCT、MRI検査もしくは脊髄造影検査が必要となります。

  • MRI検査

脳や脊髄実質にある病変を評価するのに有用な方法です。圧迫の原因として脊椎・脊髄腫瘍などの可能性が示唆された場合はMRI検査をお勧めしています。
 

  • T2強調 矢状断像:第7腰椎-仙椎間椎間板の変性と馬尾神経の圧迫が認められる
  • T2強調 横断像:椎間板(D)による神経根への圧迫(↑)が認められる
  • 脊髄造影検査

脊髄クモ膜下腔に造影剤を注入しX線撮影をすることで脊髄圧迫病変を詳細に短時間で評価できます。腰仙椎部まで脊髄が存在する小型犬や猫ではこの方法で腰仙椎疾患を評価できますが、腰仙部より頭側に脊髄尾端が存在する大型犬では馬尾神経の圧迫病変を評価することが困難な場合もあります。脊髄全体を評価して馬尾神経以外の胸腰部脊髄に病変を除外することが重要です。また硬膜外造影や椎間板造影、CT検査などを同時に行うこともあります。腰仙椎疾患の多くは動的圧迫を伴う神経障害であるため、動的圧迫の評価に最も有利な脊髄造影ストレス検査により確定診断します。

  • 造影剤のラインが消失しており、この部分で脊髄の圧迫があることがわかる
  • 脊髄造影ストレス検査

動的圧迫の評価のため、脊椎の位置を動かしてX線を撮影します。

  • 伸展時(背部を反らせる姿勢)に脊髄・馬尾神経の圧迫が悪化することがわかる

治療

治療法は症状の程度、年齢、併発疾患の有無などにより選択します。症状が軽度な場合には運動制限、消炎鎮痛剤、体重制限・減量などの温存療法を開始します。温存療法への反応が悪く、症状が再発し重症化する場合には外科的治療を選択します。
外科治療は、圧迫されている脊髄や神経根の減圧術、腰仙椎の不安定性を椎体固定によって安定化させる方法などを単独あるいは組み合わせて行います。腰仙椎に背側からアプローチし、背側椎弓切除術により馬尾神経を圧迫する椎間板物質や脊柱管を狭窄している骨、肥大した軟部組織などを除去します。腰仙椎関節の不安定性がある場合には椎体をピンと骨セメントを用いて固定します。これにより慢性化した不安定性による脊柱管狭窄を防ぎ、椎間腔を広げることにより脊柱管外にでる脊髄神経根の圧迫を緩和します。椎間腔拡大術、椎間関節突起切除術などを併用することもあります。

  • 術式

ピンと骨セメントによる椎体固定を行います。

  • 術後X線検査

予後

原因、神経障害の重症度とその持続期間によって決まります。腰仙椎関節の不安定による疼痛を主訴とし、神経障害を伴わない患者の多くは、外科的治療により症状が改善します。慢性の疼痛や重度な神経障害伴う場合は手術後の神経症状の改善に時間がかかり、尿失禁、排便不全は術後に改善しないことが多いです。
腰仙椎疾患は進行性の疾患のため早期診断し、適切な治療を行うことが重要です。

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