日本小動物外科専門医のいる動物病院
“短頭種(Brachycephalic breeds)”の多くは、その特徴的な上気道(口吻部(マズル)、鼻孔、鼻腔、喉頭など)の形態が原因で閉塞性の呼吸を示す傾向があり、この呼吸器疾患の一連の病態を“短頭種気道症候群(Brachycephalic Airway Syndrome:BAS)”と呼びます。
短頭種の多くが先天的に外鼻孔狭窄や軟口蓋過長などの呼吸の妨げとなる形態異常を持ち、これにより慢性的に声門に過剰な吸気時陰圧がかかることで喉頭小嚢反転などの二次的な形態異常が起こります。さらに重症化すると最終的には喉頭虚脱などを引き起こします。このようにBASは慢性的に進行する疾患です。
※イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、パグ、ペキニーズ、ボクサー、ボストンテリア、チベタンスパニエル、チャウチャウ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、狆などの犬種が短頭種と呼ばれます。
BAS患者の多くは生後間もない時期から興奮時や運動時にズビズビといった鼻詰まり呼吸音、ガーガー、ブーブーといった喉の奥の異常呼吸音を発します。子犬時に仰向け姿勢を好む傾向もBASの初期兆候です。これらの症状は成長と共に悪化し、安静時の吸気異常、運動不耐性、嚥下障害、唾液過多、吐出や嘔吐、睡眠障害性呼吸など様々な症状が表れます。症状が深刻化すると運動、興奮、湿度・気温上昇などに伴い呼吸困難、チアノーゼ、虚脱、熱中症などの生命を脅かす重篤な状態に陥る恐れがあります。
動物が苦しそうに呼吸し、それが時間の経過とともに悪化する様子があれば早期に積極的な外科治療が必要です。症状の軽いうち(4〜24ヵ月)に予防的な手術をすることが推奨されますが、多くの患者は症状が深刻化してから来院する傾向があります。術前に患者の上気道の異常を詳細に評価し、鼻孔狭窄の矯正、過長軟口蓋切除、喉頭小嚢切除などの術式を選択します。
上気道閉塞が深刻化した患者は麻酔に関連した気道閉塞や窒息、麻酔後の合併症による死亡事故率が高いことが知られています。BASが深刻化する前に麻酔、手術をする方が安全かつ有利です。