日本小動物外科専門医のいる動物病院
犬の肩関節内方脱臼に対する外科的治療は、これまで上腕二頭筋腱内側転移術、縫合による肩関節安定化術、関節固定術、または切除関節形成術などが一般的でした。 2017年より当院ではピンを用いて脱臼を制動する侵襲性の少ない新規の術式で多くの症例を治療してきました。2022年に16頭17肢の治療成績を日本獣医麻酔外科学会で発表し、さらにその内容をまとめた研究論文が米国獣医師会の公式ジャーナルに掲載されました。
肩関節頭外側アプローチにてより棘上筋と棘下筋の筋間を経て、上腕骨大結節内側からピンを挿入します。
上腕骨が内方に脱臼しようとすると、棘上筋(腱)がピンに制動をかけて、脱臼を防止します。
本術式は、以下のような利点があります。
2017-2022年に肩関節内方脱臼を本術式にて治療した18頭20肢では、18肢(90%)にて良好な予後が得られました。
術式は単純ですが、ピンの挿入角度や位置は、術中に各症例の肩関節不安定性に応じて調節する必要があり、高い技術を要します。
診断アプローチや治療の適用基準などは症例によって異なるため、小型犬の肩関節脱臼が疑わしい場合や前肢跛行が認められた際にはご相談ください。
本法は、米国獣医師会の公式ジャーナルJournal of the American Veterinary Medical Association誌に掲載されました!
Management of medial luxation of the shoulder joint in toy-breed dogs using an antiluxation pin placed lateral to the supraspinatus muscle tendon: 20 limbs (2017-2022) doi: 10.2460/javma.23.11.0652
犬の肩関節内方脱臼は高齢のトイプードルで多く見られます。
当院で脱臼制動ピンを用いて治療した症例24頭27肢(2025年3月現在)の内訳は、トイプードルが22頭、チワワが1頭、ヨークシャーテリアが1頭でした。
また高齢での発症が多く、当院で治療した症例のうち若齢での発症は4頭のみでした。
10年前から右前肢の間欠的な跛行があり、1か月前から頻度が増えたとのことで来院されました。
この手術は低侵襲で比較的短時間で終わるため、高齢動物でも体への負担が少なく実施できます。
跛行の経過が長い症例でしたが、比較的早期に患肢を使って歩けるようになりました。
若齢で肩関節内方脱臼を発症した症例です。
手術から5年という長い時間が経ちましたが、その間再発なく現在もしっかり歩行できています。
治療の経過をご紹介しています。
チワワで肩関節内方脱臼を発症した症例です。
トイプードル以外の犬種でも発症することがあります。
脱臼制動ピンを用いて治療し、しっかり患肢を使って歩行できるようになりました。