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脊髄くも膜憩室のはなちゃん

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  4. 脊髄くも膜憩室の柴犬 はなちゃん

患者紹介

柴犬、4歳、雌
はなちゃんは1歳の時に尿失禁や両後肢のふらつきがあり、他の動物病院でくも膜憩室と診断を受け、外科治療(「脊髄減圧術」と「くも膜憩室の切開」)を受けました。術後経過は良好で尿失禁やふらつきはほとんど認められなくなりましたが、約1年後に症状が再び現れ始め、徐々に悪化したため当院に来院しました。

診断

当院を受診したのは4歳の時で、尿失禁や両後肢の重度のふらつきがありました。脊髄造影検査を行ったところ、くも膜憩室が再発しているのがわかりました。

  • 脊髄造影X線検査
  • 赤矢印の位置にくも膜憩室(涙滴所見)が認められた。青矢印は変形性脊椎症の所見(椎体間の架橋形成)を示している

以前から我々は「脊髄の動的圧迫」が一部のくも膜憩室の再発の原因になっているのではないかと推測していました。特にはなちゃんの場合、病変の近くに椎体が不安定になっている時に生じる変形性脊椎症が認められたため脊髄造影ストレス撮影という検査でその評価を行いました。

脊髄の動的圧迫:脊髄の圧迫を引き起こす代表的な病気の椎間板ヘルニアでは、変性した椎間板物質が飛び出し脊髄を圧迫することで症状が出ますが、「脊髄の動的圧迫」では、椎間板の変性に関連して椎間板強度や安定性が低下し、脊椎の動き(屈曲や伸展など)や特定の体位において椎間板が脊柱管内に突出したり戻ったりを繰り返すことで脊髄が圧迫され、症状(痛みやふらつき)を引き起こします。そのため、通常の状態では症状がはっきりと現れないことが多く、動作に伴った一時的な痛みが初期症状として現れることがよくあります。

脊髄造影ストレス撮影:脊髄造影を実施した後、犬の脊椎を屈曲、伸展しそれぞれのポジションでX線撮影を実施する手技で、主に脊髄の動的圧迫の評価のために実施します。

  • 脊髄造影ストレス撮影

白く造影されたくも膜憩室の大きさと形が、脊椎の動きに伴い変化しているのがわかります。また白く縁取りされた脊髄の太さも脊椎の動きにより細くなったり太くなったりする様子がわかります。
脊髄の動的圧迫がくも膜憩室再発の原因になっている可能性が高いと考えられました。

治療

治療は先に記載したくも膜憩室形成部位の「脊髄減圧術」と「くも膜憩室の切開」および「造袋術」に加えて「椎体固定術」を実施しました。
椎体固定術:前後の椎体の不安定性をなくすために数個の椎体にピンを約4〜6本挿入し、骨セメントで固定する方法です。椎体が安定し、脊椎の動きに伴う脊髄の動的圧迫を軽減することができます。

  • 術後X線検査
  • 合計5本のピンを用いて椎体固定術を行った。

術後経過

術後は徐々にふらつきが改善し、約2年後には尿失禁やふらつきなどの神経学的な異常は全く認められなり、7年経過した今でも再発する様子はなく、元通りの生活に戻りました。

  • 術後7年後の歩様

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