日本小動物外科専門医のいる動物病院
椎間板は前後の脊椎を強く連結しています。椎間板の構造を断面で見ると、髄核の周囲を線維輪が囲んでいます。正常な髄核はゼリー状で弾力性に冨み、脊椎に加わる衝撃を吸収する働きを持ちます。この椎間板が変性して脊柱管内に逸脱し、脊髄を圧迫する状態が椎間板ヘルニアです。
ダックスフンド、フレンチブルドッグ、ウェルシュコーギー、ビーグル、シーズー、コッカースパ二エル、ペキニーズなどは軟骨異栄養性犬種と呼ばれ、遺伝的に椎間板ヘルニアを起こす危険性が高い犬種です。これらの犬種では2歳齢までに椎間板が変性し、椎間板の衝撃吸収能が損なわれ、同時に線維輪も脆くなります。椎間板に無理な力が加わると、破れた線維輪から髄核が飛び出し脊髄を圧迫します(ハンセンⅠ型ヘルニア)。軟骨異栄養性犬種の椎間板ヘルニアは3~6歳までの間に最初に発症することが多く、その後再発を繰り返して脊髄圧迫が重症化するにつれ症状が悪化します。
脊椎痛、運動失調、麻痺、感覚消失など、重症度に応じて様々な症状を示します。
椎間板ヘルニアの確定診断には全身麻酔下で行う脊髄造影検査、CT造影検査、またはMRI検査が必要です。それぞれの検査法に長所、短所があり、また必要な麻酔時間も差があるため、鑑別診断リストや治療の緊急性によって最適な検査法を選択します。
一般的に椎間板ヘルニア等の硬膜外圧迫病変の評価には脊髄造影検査が有利であり、また緊急治療を必要とする場合にも短時間で確定診断できる脊髄造影検査が有利です。
椎弓の一部を削り、減圧および椎間板物質の除去を目的とした片側椎弓切除術と再発率を低下させる予防的造窓術を同時に実施します。
術後の歩行機能回復は術前の神経学的グレードにより予測できます。
グレード1~4bの症例の97.7%、深部痛覚を完全に消失しているグレード5の症例の52.1%が術後に回復し、歩行可能となります。
この結果から、両後肢・尾の深部痛覚が完全に消失していなければ高い確率で歩行機能を回復することがわかります。
歩行機能を回復した症例に見られる排尿失禁、排便失禁の発生はグレードが高いほど高率になります。
この研究報告は2011年 獣医神経病学会、ならびに米国獣医外科専門医協会年次大会(シカゴ)、2012年 欧州獣医外科専門医協会年次大会(スペイン)で発表され、同年、米国獣医師協会の公式ジャーナル Journal of the American Veterinary Association に掲載されました(PMID: 23216037)。