日本小動物外科専門医のいる動物病院
歯肉や口唇、顎骨、扁桃腺などにできる腫瘍を口腔腫瘍といいます。犬では悪性黒色腫(30-40%)、扁平上皮癌(17-25%)、線維肉腫(8-25%)の3つが口腔腫瘍のほとんどを占め、その他に棘細胞腫性エナメル上皮腫(5%)などが挙げられます。猫では扁平上皮癌(70-80%)が多く、続いて線維肉腫(13-17%)が一般的です。(2019 Clinical Oncology)
流涎、口臭、腫れ、痛みなどを生じ、腫瘍が大きく成長すると眼球や鼻腔、頭蓋骨などの周囲組織に影響を及ぼします。口腔内を占拠する大きな腫瘤は呼吸障害や嚥下障害を引き起こします。腫瘍浸潤による骨破壊から顎骨の病的骨折が起こることもあります。
症状のない小さな腫瘤や、口腔内の見えづらい場所に発生した腫瘤は麻酔の挿管時や歯科処置の際に偶然発見されることもあります。
麻酔下で切除生検を行い診断します。同時にCT検査により転移や骨破壊の有無、腫瘤の解剖学的位置などを確認し綿密な手術計画を立てます。口腔腫瘍の多くは局所浸潤性が強く、周囲の軟部組織や骨に腫瘍が浸潤していることが多いため積極的な外科的切除が必要となります。また、口腔腫瘍は周囲リンパ節(下顎リンパ節、耳下腺リンパ節、内喉頭後リンパ節)に転移する可能性があるため、術前にリンパ節の触診や細胞診などの検査が推奨されています。
外科および放射線療法が治療選択肢で、悪性黒色腫では補助療法として抗癌剤療法や免疫療法を行うこともあります。
腫瘤の発生部位およびその大きさによって様々な手術方法があり、手術の目的は腫瘍細胞の完全切除です。腫瘍細胞が生体に残らないように腫瘤周囲の正常な組織ごと腫瘤を切除します(en bloc切除)。口腔の吻側に腫瘤が存在する場合は、部分的あるいは完全に顎骨を切除することで比較的容易に腫瘍の完全切除が期待できます。腫瘍が眼球などの周囲組織にまで浸潤している場合は、眼球摘出などのより積極的な追加手技が必要です。
病理検査の結果、切除した組織の断端に腫瘍細胞が認められた場合(不完全切除)は放射線治療などの追加治療が必要です。
腫瘤が小さく転移を起こす前に腫瘍を完全切除できれば長期的な予後が期待できます。画像では確認できないほどの小さな転移の可能性があるため、術後も転移病巣に対する定期的な検診が必要です。特に、扁桃に位置する腫瘍は転移率が高く慎重な経過観察が必要です。猫の扁平上皮癌は非常に侵襲性が強く広範な骨浸潤を示すため、病状が進んだ状態で来院する傾向があり、そのような患者ではあまり長期的な予後は期待できません。いずれの腫瘍も早期に適切な治療を行う必要があります。
伴侶動物の表情は飼い主様とのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たすため、飼い主様にとって顔面の手術後の整容性、容姿の変化は重要です。術前に手術内容と術後の機能、容姿の変化をよくご理解頂いた上で、手術の準備をして頂く必要があります。一方、動物にとって治療の最大の目的は腫瘍が原因で生じる痛みなどの症状から解放され再び顔面が機能することです。手術を行う際には生活の質(QOL)の向上が得られることを第一に考え可能な限り美容面を考慮して再建術を行います。