電話
03-5988-7888
FAX・時間外救急電話
03-5988-7887
MENU

供血犬りんごちゃんの脳髄膜腫と耳垢腺癌

  1. 専門分野
  2. 脳神経外科
  3. 脳腫瘍
  4. 供血犬りんごちゃんの脳髄膜腫と耳垢腺癌

患者紹介

ゴールデンレトリーバー、12歳、避妊雌、体重28㎏
当院の供血犬だったりんごちゃんは突然の全身性痙攣発作を起こしました。
3ヵ月前に頸部皮膚肥満細胞腫(悪性度2)の切除と、数年前から甲状腺機能低下症に対してホルモン薬を投与していました。
最近、聴力のやや低下と散歩中に前肢をガクッとつまずくことがありましたが、その他は健康に過ごしていました。

  • 突然の全身性痙攣発作の様子
  • 全身性痙攣発作直後の様子

発作から約1時間後に病院に救急搬送し、抗痙攣薬、脳圧降下剤の投与により痙攣は治まりましたが、その後2日間意識レベルが低下し、摂食および歩行困難になりました。顔面の小痙攣が再発し抗痙攣薬の投与を開始しました。
 

診断

  • MRI検査

右前頭葉に1.8cm×1.0cm×1.5cmの脳腫瘍と、右鼓室包、鼓膜付近に腫瘍が確認されました。

  • CT検査

鼓膜付近の腫瘍は内視鏡下で生検し、耳垢腺癌と診断されました。
MRI検査の各画像から脳腫瘍は髄膜腫が疑われ、脳腫瘍切除と同時に全耳道および鼓室包切除を計画しました。

  • 手術直前の評価(初発発作から3週間後)

歩行検査では異常はありませんが、神経学的検査では両後肢の姿勢反応の低下が確認されます。脳神経検査の異常はありませんでした。

  • 歩行の様子
  • 姿勢反応の検査
  • 脳神経検査

治療

脳腫瘍摘出のため経右側前頭洞アプローチ、右側前頭葉切除術を実施しました。

  • 頭頂骨の骨切り部位にBurrにて小孔をあけた後、サジタルソーにて骨切り。 切除骨片は閉鎖時に使用するため保存する。
  • 頭蓋内アプローチ後の脳腫瘍切除は蛍光色素を静脈注射し脳腫瘍組織を特異的に染色した状態で手術顕微鏡を用いて行う。
  • 腫瘍切除後、切離した前頭骨片を固定し欠損部を整復する。
  • 脳腫瘍切除手術後。蛍光色素の為に皮膚が黄色く見える。

続いて、耳垢腺癌に対し右全耳道および鼓室包切除を実施しました。

  • 全耳道、および鼓室包内に充満していた組織

病理組織学的検査の結果、脳腫瘍は髄膜腫、鼓室包の腫瘍は耳垢腺癌と診断されました。
術後は麻酔からの覚醒に問題なく、翌日には摂食、摂水出来ました。

術後経過

  • 術後3日目

歩様に異常なく、食欲も回復し元気に散歩もできるようになり退院しました。

  • 術後3日目の歩様
  • 術後10日目

鼓室包切除に伴う顔面神経の軽度麻痺のために、眼瞼の反射的な閉鎖が弱まっていました。この軽度の麻痺は約10日後には正常に回復しました。

  • 術後10日目の眼瞼反射の様子

脳障害により行動異常、性格の変化などが起こることがあります。
りんごちゃんは脳腫瘍切除後以前はなかった異常行動が出ています。ゴミ箱をあさる、以前食べなかった食材の残り、ミカンの皮、糞などを食べるようになりました。
幸い攻撃性、重度の痴呆など日常の生活に深刻な支障を来すような異常行動が出ていないために元気な日常生活を過ごしています。
今回の髄膜腫切除による脳障害は最小限でしたが、不完全切除である可能性が高く、数ヶ月後には脳腫瘍の再発の症状が出ることが予想されます。

  • ミカンの皮を食べる様子
  • 術後3ヶ月目

脳および耳の手術より3ヶ月が経過したため、過去に治療した腫瘍(肥満細胞腫、耳垢腺癌、髄膜腫)の転移や再発が起こっていないか検診を行いました。

脳手術以降、現在も時折軽度の異常行動が認められますが、発作を起こすことはありません。自宅では時折後肢に力が入りづらい事があるようですが、院内で行った神経学的検査では明らかな麻痺や運動失調などは無く、顔面神経や視覚などを含む脳神経の検査でも異常は認められませんでした。

全身の画像検査(レントゲン検査、超音波検査)や血液検査でも明らかな異常所見は見つからず、現時点では腫瘍の転移や再発による影響は最小限であると考えられました。今後も定期的ながん検診を行う予定です。

  • 術後3ヶ月目の歩様
  • 脳神経検査

関連リスト