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進行性脊髄軟化症(Progressive myelomalacia: PMM)

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  2. 脳神経外科
  3. 胸腰部椎間板ヘルニア
  4. 進行性脊髄軟化症

進行性脊髄軟化症とは

進行性脊髄軟化症(PMM)は重度の急性脊髄障害に伴って二次的に起こる脊髄の虚血性または出血性壊死であり、致死的な疾患です。脊髄の壊死が損傷した箇所より上行性および下行性 (ascending-descending)に進行することで、最終的にほぼ全ての患者が死亡します。

原因

PMMは深部痛覚を失うほどの重度の急性脊髄障害による局所的な脊髄の壊死が周囲の脊髄に波及して発症します。代表的な原因疾患として椎間板ヘルニア脊椎骨折が挙げられますが、その他の腫瘍性疾患梗塞性疾患などあらゆる脊髄障害に伴って発症する可能性があります。

過去の当院の研究結果では、胸腰部椎間板ヘルニアにより深部痛覚を失った患者(グレード5)のうち11.4%にPMMを診断しました(Aikawa, et, al.JAVMA 2012 PMID: 23216037)。また、グレード5の患者のうちフレンチブルドッグ(33%)はダックスフンド(11.6%)に比較してPMMを発症しやすいことがわかりました(Aikawa, et, al.Veterinary Surgery 2014 PMID: 24433331)。

  • 胸腰部脊椎疾患のグレード分類
  • PMM発症率

症状・最期

PMM患者の多くは急性脊髄障害から5日以内に特異的な臨床症状が明らかとなります。一般的には、その期間にPMMを疑う症状が認められなければPMMを発症している可能性は低いと言えます。
PMM発症直後の病変が局所的な時期には通常のグレード5の患者と同様の後肢完全麻痺(後肢の反射は正常あるいは亢進する)を呈しますが、発熱、元気が無い、強い脊椎痛などの症状が認められることもあります。その後、徐々に脊髄壊死が波及することによって進行性の神経学的異常所見が明らかとなります。下行性に壊死が進むと後肢や会陰の反射が低下・消失します。上行性に壊死が進むと胸腰部の皮筋反射消失ラインが頭側に移動したり腹圧が低下します。さらに上行するに従い前肢の動きや呼吸様式、眼瞼(ホルネル症候群)などに異常所見が認められるようになり、強い痛みや不快感に苦しむ患者もいます。最終的には頸髄壊死により呼吸が停止します。過去の報告によれば、PMM患者の多くはPMMが臨床的に疑われてから2~4日かけて進行し死に至ります。PMM発症から13日後に死亡した記録もありますが、欧米では人道的な考えから安楽死が選択されることが多く、患者が自然に死亡するまでの明確な日数はわかっていません。10日以上進行が見られない場合PMMの可能性は低いと考えられます。PMMの進行が途中で停止し死を免れる患者がごく稀にいますが、機能回復の可能性は極めて低いと考えられます。

診断

PMM発症が疑わしい患者は毎日の神経学的検査によりPMM進行に伴う経時的変化を評価して臨床診断します。PMM患者ではMRI画像や脊髄造影画像、術中の脊髄表面の肉眼所見、脳脊髄液検査などに異常所見が確認できることがあります。しかしこれらの所見はいずれも非特異的でありPMMでない症例にも認められることがあるためこれをもってPMMと診断することはできません。PMMの確定診断には経時的な所見に加えて手術時の硬膜切開による広範囲の脊髄壊死・液状化の確認または病理組織学的検査が必要です。

  • 術中所見、A:正常な脊髄、B:PMM症例の脊髄、壊死や出血により紫色に変色した脊髄が広範囲に確認できる
  • PMMの脊髄造影所見、脊髄実質への造影剤の浸潤が認められる

治療・予防

PMMには有効な治療法はありません。様々な治療法(手術時の硬膜切開、ステロイド療法、鍼治療、プロテアーゼ阻害剤、再生医療など)が試されていますが、いずれも明確な有効性は示されていません。ネットなどで散見されるPMM患者の治療例は正しく診断・評価されていないことが多く、治療後に回復が見られた症例は元々PMMではなかったと考えるのが妥当です。
PMMが疑わしい場合、その緩和治療として積極的な疼痛管理が必要です。痛みの程度が比較的軽い患者は最期をご家族と一緒に過ごすために在宅での緩和ケアを選択することができますが、入院のまま持続的な鎮痛薬投与が必要な患者もいます。PMMに間違いないと臨床診断した患者では苦痛を回避するための安楽死もひとつの選択肢です。
椎間板ヘルニアや脊椎骨折などの急性脊髄障害の患者は、深部痛覚を失う前に治療をすることで高い歩行機能の回復率が期待でき、PMMの発症も防げる可能性があります。深部痛覚を失った患者にはできるだけ早期に外科治療をしますが、手術をしても術後にPMMが明らかとなり死亡してしまうこともあります。来院時に明らかにPMMを発症していると判断される患者には手術をお勧めしないこともあります。また、椎間板ヘルニアの軽症例で外科治療をしない場合、経過観察中に症状が悪化して重度の脊髄障害を起こしPMMを発症することもあります。

PMMの予防方法はありませんが、PMM発症の最も多い原因である椎間板ヘルニアの予防は可能です。椎間板ヘルニアの最初の手術で予防的造窓術を行うことでその後の椎間板ヘルニア再発のリスクを下げることができます(Aikawa, et, al.Veterinary Surgery 2012 PMID 22380868)。最初の椎間板ヘルニアではPMMを発症しなかった症例でも、再発時にPMMになる可能性があるため当院では特にヘルニア好発犬種には最初の手術時に再発防止を目的に予防的造窓術を実施しています。
 

  • 脊髄の変色が確認できPMMが疑われた、広域な椎弓切除による減圧術および硬膜切開を実施したが症例は手術後PMMを発症し死亡した
  • PMM発症症例の硬膜切開後の脊髄の様子、広範囲に液状化した脊髄が確認できる

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