日本小動物外科専門医のいる動物病院
橈骨、尺骨とは前足を構成する前腕部の骨で、これらの骨折はトイプードルやポメラニアンなどの小型犬でよく認められ、抱っこからの落下やソファーからのジャンプなどの些細な事故の結果起こるものがほとんどです。小型犬の橈尺骨骨折はそのほとんどが手首に近い部位に発生し、外固定法や髄内ピンなどの固定法を単独で用いた場合には癒合不全などの合併症が起こるリスクが高く、特別な症例を除いてはプレート法または創外固定法などの方法で強固な固定をしなければなりません。
プレート法と創外固定法にはそれぞれ特徴があり、骨折の形態や患者の状況(年齢、体重、活動性、健康状態など)、飼い主様の意向など、様々な要素をもとに治療方針を決定します。
ステンレスあるいはチタン製のプレートを、スクリューを用いて骨折部位に固定する方法です。固定力が強く術後早期の負重が可能で術後管理が容易である一方、適切な大きさのプレートや十分な数のスクリュー設置が制限される、侵襲が大きい、プレートに過度の負荷がかかって起こる骨粗鬆症および再骨折などの合併症が起こることなどの欠点があります。
これまでに当院でプレート法により治療した約70頭の小型犬全てで、骨癒合および良好な患肢の使用が確認されました。これらの患者を長期にわたって調査した結果、プレート除去などの再手術を必要とした割合は6.2%でした。最も多かった合併症は皮膚に関連した問題で、プレートの刺激による皮膚炎や手術部位の感染、術後の包帯装着に関連した潰瘍などが10.8%で認められました。この治療成績は2017年に獣医麻酔外科学会で発表し、2018年には論文として米国および欧州の獣医外科専門医協会の公式ジャーナル Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology に掲載されました(PMID: 29684919)。
近位および遠位骨片に数本ずつワイヤーを挿入し、そのワイヤーを皮膚の外で固定する方法です(写真)。プレート法と比較して、①骨折部への侵襲が少なく血液供給を温存できる、②必要に応じた強度の固定を自由に選択できる、③小さい骨片にも適用が可能、④手術時間が短い、⑤ワイヤーの除去が容易、⑥インプラントが体内に残らない、などの利点があり、ほとんどの患者にはこの方法をお勧めしています。術後3〜4か月は包帯交換やピン周囲の消毒などのために複数回通院していただきます。
当院には多くの若齢の小型犬が遠位橈尺骨骨折の治療のために来院します。そのほとんどの症例でピンとアクリル樹脂を固定具に用いたFree-form によるMultiplanar2型創外固定法により治療しています。この方法は小型犬の遠位橈尺骨骨折に対して極めて有用で、小さい骨片に対して様々な角度でピンを挿入し、必要に応じた十分な固定強度を調節できます。術後の安静は必要なく、最終的に全てのインプラントを除去する為、長期合併症の心配がありません。この方法で治療した動物約140頭のデータを算出したところ、癒合不全/癒合遅延などの合併症が生じた症例はなく、全ての症例で骨癒合と良好な患肢の使用が認められています。このデータを詳細に分析して結果をまとめた論文が、獣医外科学の最高権威である米国のジャーナルVeterinary Surgery誌に掲載されました(PMID: 31140637)。この論文は、2018年1月から2019年12月の2年間で最もダウンロードされた論文の1つに認定されました(詳しくはこちら)。
当院ではプレート法と創外固定法のどちらにも対応可能です。骨折の形態や動物の状況、飼い主様のご意向などに応じて最適な治療となるよう努めています。それぞれの治療法の利点と欠点、特徴、管理方法の違いなどがあるため、まずはご連絡ください。
※獣医師様へのFree-form multiplanar type II 創外固定の説明(より専門的な内容を含みます)