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股関節脱臼(Hip Luxation)

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  2. 骨関節外科
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  4. 股関節脱臼

股関節脱臼とは

股関節は寛骨臼と大腿骨頭で構成され、大腿骨頭靭帯や関節包などにより強固に連結されているため、通常は交通事故などの大きな外傷によって脱臼が起こります。しかしながら、当院に来院される患者さんの多くは(小型犬の飼育が多い日本国内では)ソファーからのジャンプや散歩の走行中など日常的な軽度のストレスにより脱臼し、これらの症例ではもともと股関節に亜脱臼や緩みなどの異常があった可能性があります。

症状

様々な程度の跛行(はこう、足をかばって歩くこと)を示し、重度の場合は足を完全に挙げて残りの3本足で歩きます。交通事故などによって受傷した場合には、呼吸器や神経の障害に起因する症状を併発していることがあります。

診断

脱臼の有無は通常、整形外科的検査や臨床症状に基づいて診断できますが、必ずX線検査を行い脱臼の方向などを確認するとともに、股関節形成不全レッグペルテス病、寛骨臼骨折や大腿骨頭骨折、骨関節炎などの股関節脱臼以外の基礎・併発疾患について評価することが重要です。

  • 外傷性股関節脱臼。股関節の変形性関節症、大腿骨や寛骨臼の骨折はない。

治療

非観血的(関節を露出しない)整復法と観血的(関節を露出する)整復法があり、併発疾患の有無やその重症度、受傷からの経過日数などに基づいて治療方針を決定します。
股関節の整合性が保たれており、脱臼以外の併発疾患がなく、受傷後早期(4〜5日以内)であれば、麻酔下で脱臼を整復できる場合があります。麻酔下での徒手操作により整復された場合、再脱臼防止のために後肢の各関節を屈曲・内旋・外転させた状態で包帯を1〜2週間装着します。徒手整復後、包帯を装着せずに坐骨・腸骨に対しピンを挿入する方法(DeVita pin)や腸骨と大転子に挿入したピンを創外固定する方法などもありますが、これらの方法は合併症が起こることも比較的多く、現在ではあまり一般的ではありません。脱臼を繰り返している場合、大腿骨頭が整復できない場合、非観血的整復後に股関節が不安定な場合には、観血的整復が必要となります。

観血的整復にも様々な方法があります。脱臼の整復後に関節周囲にスクリューや縫合糸を設置して関節を安定化させる方法や合成性の強靭な縫合糸を大腿骨頭靭帯の代替として機能させるトグルピン法などがあります。トグルピン法に使用する縫合糸は永久に関節の整復状態を維持できるわけではなく、股関節領域の軟部組織の治癒、瘢痕組織の形成および関節包の再生によって股関節の安定性が維持されます。
股関節にもともと亜脱臼や変形性関節症があり、軽度のストレスによって股関節が脱臼した症例では、上記の方法で治療してもインプラントの破綻などによって再脱臼するため、大腿骨頭骨頸切除股関節全置換術などの方法を選択します。
大腿骨頭骨頸切除法は、大腿骨頭および骨頸を切除することによって、寛骨-大腿骨間の接触によって起こる疼痛を解消し、線維性の偽関節を形成する方法です。

予後

非観血的整復法は、47〜65%の再脱臼率が報告されています。
観血的整復法の予後は、整復後の安定性や受傷からの経過時間によって様々です。早期に整復し、十分に安定化した症例の予後は良好で、70〜75%で正常な機能回復が期待できるとされています。もともと股関節の弛緩や変形性関節症がある症例では高い確率で再脱臼を起こし、大腿骨頭骨頸切除や人工股関節置換術を必要とすることがあります。大腿骨頭骨頸切除術の術後は、わずかに肢が短縮し多少の関節可動域が失われますが、日本国内で多く飼育されている小型犬はこの方法によく反応し、日常的な生活にはほとんど支障がない程度まで回復します。術後早期の患肢使用が推奨され、積極的なリハビリテーションが重要です。

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